From Ran Kairu(Short Story/Japanese)
「ホーギーは、なんで幽霊になったんだ?」
どう見ても女にしか見えない恋人(♂)の顔を、ホーギーはまじまじと見下ろした。
綺麗、というより可愛らしい顔立ちは好奇心に満ちていて、瞳が輝いている。
「……なんで、そんなこと聞くんですかい?」
「オレが聞きたいと思ったの!」
なぁ、教えろよー。
迫られて、どうしたものかと首を捻る。
話せないというよりは、話したくない。
随分愚かなことをしたという自覚があるからだ。
「どーしても、聞きたいんですかい?」
「聞きたい!」
ますます輝きを増した瞳に溜息をついて、ホーギーはゆっくりと唇を開いた。
その記憶は、奈落の底に
大事な人を取り返したかった。 ただ、それだけだったのだ。
「なんともはや、愚か者よなぁ?」
ニイィッ、と唇をつり上げる男は、その世界の支配者。神の一柱、だった。
かつて、罪科により他の神々に追われ、この世界を支配するようになったという。
太陽が昇らず常に薄闇に包まれ、重力を無視した大地の船が至る所に浮かぶ、この“破れた世界”を。
“破れた世界”は“反転世界”。
この世の裏側。即ちあの世。
命を失った者達が流れ着く場所。
そんなところに、生者がやってきたらどうなるだろう?
「こんなトコロに来てどうなるか。わからなかったわけではあるまい?」
古くさい口調で、神が嗤う。
口中にあふれた血を吐き出して、ホーギーは神を見上げた。
神の足が彼の肩を踏みつける。
ぐぅ、と呻いて、ホーギーは地面に頬を押しつけられた。
「さぁて、どうしてやろうか?」
至極楽しげに、神が嗤った。
自分など、どうなってもかまいはしない。
だから、あの人を。
あの人を、返して――……
「……それで、幽霊になったのか?」
「ええ。死者の世界に入った生者が、無事に還れるわけがない。こっちに還ることを赦される代わりに、あたしは死者にならざるを得なかったんでさ」
こちらに還ったばかりの時は、何処にいけばいいのかもわからず、ただ自分が死んだとされる場所を彷徨っていた。
いわゆる、自縛霊という状態だったのだろう。
そんな状況の自分に手を差し伸べてくれたのが、レイヴンだった。
『おやおや。今日は珍しいものを見つける日だね。幽霊だなんて』
珍しいものが好きな物好きは、行き場を無くした幽霊に手を差し伸べて、自分の傍にいる権利を与えてくれたのである。
「……じゃあ、あの鴉の人、ホーギーの大事な人?」
「そうですね」
「オレが財布とった奴も、その相棒も?」
「そうですねぇ……」
「じゃあ、オレは?」
舞晃はきっとホーギーを見上げた。
「オレは、どれくらい大事!?」
ホーギーの恩人である鴉くらい?
仕事仲間くらい?
それとも。
「オレが死んでも、取り返しに行ってくれる……?」
不安を滲ませたその台詞に、ホーギーは目をしばたかせた。
「……随分、信用がないですねぇ……あたしゃ」
「ホーギー?」
「取り返しに行きまさぁ。あんたはあたしの“恋人”だ。次に行ったら、もう戻っては来れないでしょうがね。それでも」
それでも、万が一があったなら。
「あたしは、あんたを取り返しに行きますよ」
舞晃を抱き締めて、ホーギーは笑った。
どう見ても女にしか見えない恋人(♂)の顔を、ホーギーはまじまじと見下ろした。
綺麗、というより可愛らしい顔立ちは好奇心に満ちていて、瞳が輝いている。
「……なんで、そんなこと聞くんですかい?」
「オレが聞きたいと思ったの!」
なぁ、教えろよー。
迫られて、どうしたものかと首を捻る。
話せないというよりは、話したくない。
随分愚かなことをしたという自覚があるからだ。
「どーしても、聞きたいんですかい?」
「聞きたい!」
ますます輝きを増した瞳に溜息をついて、ホーギーはゆっくりと唇を開いた。
その記憶は、奈落の底に
大事な人を取り返したかった。 ただ、それだけだったのだ。
「なんともはや、愚か者よなぁ?」
ニイィッ、と唇をつり上げる男は、その世界の支配者。神の一柱、だった。
かつて、罪科により他の神々に追われ、この世界を支配するようになったという。
太陽が昇らず常に薄闇に包まれ、重力を無視した大地の船が至る所に浮かぶ、この“破れた世界”を。
“破れた世界”は“反転世界”。
この世の裏側。即ちあの世。
命を失った者達が流れ着く場所。
そんなところに、生者がやってきたらどうなるだろう?
「こんなトコロに来てどうなるか。わからなかったわけではあるまい?」
古くさい口調で、神が嗤う。
口中にあふれた血を吐き出して、ホーギーは神を見上げた。
神の足が彼の肩を踏みつける。
ぐぅ、と呻いて、ホーギーは地面に頬を押しつけられた。
「さぁて、どうしてやろうか?」
至極楽しげに、神が嗤った。
自分など、どうなってもかまいはしない。
だから、あの人を。
あの人を、返して――……
「……それで、幽霊になったのか?」
「ええ。死者の世界に入った生者が、無事に還れるわけがない。こっちに還ることを赦される代わりに、あたしは死者にならざるを得なかったんでさ」
こちらに還ったばかりの時は、何処にいけばいいのかもわからず、ただ自分が死んだとされる場所を彷徨っていた。
いわゆる、自縛霊という状態だったのだろう。
そんな状況の自分に手を差し伸べてくれたのが、レイヴンだった。
『おやおや。今日は珍しいものを見つける日だね。幽霊だなんて』
珍しいものが好きな物好きは、行き場を無くした幽霊に手を差し伸べて、自分の傍にいる権利を与えてくれたのである。
「……じゃあ、あの鴉の人、ホーギーの大事な人?」
「そうですね」
「オレが財布とった奴も、その相棒も?」
「そうですねぇ……」
「じゃあ、オレは?」
舞晃はきっとホーギーを見上げた。
「オレは、どれくらい大事!?」
ホーギーの恩人である鴉くらい?
仕事仲間くらい?
それとも。
「オレが死んでも、取り返しに行ってくれる……?」
不安を滲ませたその台詞に、ホーギーは目をしばたかせた。
「……随分、信用がないですねぇ……あたしゃ」
「ホーギー?」
「取り返しに行きまさぁ。あんたはあたしの“恋人”だ。次に行ったら、もう戻っては来れないでしょうがね。それでも」
それでも、万が一があったなら。
「あたしは、あんたを取り返しに行きますよ」
舞晃を抱き締めて、ホーギーは笑った。